01 地球と生命
光合成は、 地球をどう変えたのか
前の旅では、散らばっていた反応が境界の内側へ集まり、一つのまとまりとして続き始めるまでをたどりました。最初の細胞は、周囲の物質を利用しながら、かろうじて自分を保っていたはずです。その生命が、やがて地球の外から絶えず届く光を使うようになります。
光は、どこかの場所にだけ蓄えられていた資源ではありません。昼ごとに地表へ届き、海の浅い場所にも降り注ぎます。生命がその力を化学反応へ変えられるようになったとき、利用できるエネルギーの範囲は大きく広がりました。
ただ、光を使うことと、酸素を生み出すことは同じではありません。最初の光合成がどのようなものだったのかはわかっていません。それでも、その後に起きた一つの変化が、海と大気、そして未来の生命が生きる条件まで変えていきます。
光が、生命の反応へ入り始める
生命が光を使うようになった最初の瞬間は、記録に残っていません。現在の地球には、光を化学エネルギーへ変えるさまざまな細菌がいて、その中には酸素を出さず、硫化水素、水素、二価鉄などを利用するものもあります。
光合成は、最初から植物の葉のような仕組みだったわけではありません。光を受けた分子が電子を動かし、その流れを利用して細胞の内側で反応を進める。初期の光合成は、そのような小さな仕組みから始まった可能性があります。
それでも、光を使う生命が現れたことには大きな意味がありました。生命は、周囲に偶然存在する化学物質だけでなく、地球へ繰り返し届く光を、自らの反応へ組み込めるようになったのです。
水を使うという大きな転換
光を利用する生命が増えても、使える材料には限りがあります。硫化水素や二価鉄は、どこにでも同じようにあるわけではありません。その中で、地球に広く存在する水を使えるようになれば、生命が光から得られる力は大きく広がります。
ただ、水は安定した分子です。そこから電子を取り出すには、強い力と複雑な仕組みが必要です。
ただ、酸素発生型光合成がいつ完成したのかは、はっきりしていません。大気に酸素がたまり始めるより前から、浅い海や微生物の集まる場所で、わずかな酸素が生み出されていた可能性があります。
生まれた酸素は、すぐに消えていった
酸素を生み出す細胞が現れれば、空はすぐに現在のようになったのでしょうか。実際には、そうはなりませんでした。酸素は、ほかの物質と反応しやすい気体だからです。
初期の海には、水に溶けた二価鉄が多く含まれていました。酸素が生まれると鉄は酸化され、水に溶けにくい形へ変わり、海底へ沈んでいきます。火山から出る還元的なガス、海底の鉱物、有機物も酸素を消費しました。生まれた酸素は、大気へ届く前に、地球の中に残っていた反応相手へ次々と使われていったのです。
海と大気の均衡が変わる
酸素がつくられては消える状態は、長く続きました。その間にも、光を使う細胞は海の中で反応を重ねていたと考えられます。やがて、およそ24億年前、地球の大気に酸素が持続的に残り始めます。
この転換は、大酸化イベント、または大酸素化イベントと呼ばれています。「イベント」といっても、一日のうちに空気が入れ替わったわけではありません。酸素の生産と消費の均衡が、長い準備の末に別の状態へ移っていった出来事です。
ただし、大酸化イベントの直後に、現在と同じ酸素濃度になったわけではありません。表層には酸素のある場所が広がる一方で、深い海には酸素の乏しい領域が残りました。地球の酸素化は、その後も長い時間をかけて段階的に進みます。
酸素は、危険であり、新しい可能性でもあった
現在の私たちは酸素を呼吸に使っているため、酸素は生命に必要なものとして見えます。ただ、酸素は反応性が高く、そこから生じる活性酸素は、DNA、タンパク質、膜を傷つけます。酸素のない環境に適応していた生命にとって、大気と海の変化は、歓迎すべき出来事ではありませんでした。
酸素のある場所を避ける系統もあれば、活性酸素による損傷を抑える仕組みを発達させた系統もあったと考えられます。ただし、「酸素によって当時の生命の大半が一度に絶滅した」と断定できる地質記録はありません。酸素は、すべての生命を一度に滅ぼした毒ではなく、生きられる場所と、続きやすい仕組みを大きく変えた環境条件でした。
その一方で、酸素を使って有機物からエネルギーを取り出す呼吸は、同じ材料から多くのエネルギーを得られる道を開きます。危険だった酸素を抑え、利用できるようになった生命は、それまでとは異なる反応の世界へ進みました。
大気中の酸素からつくられるオゾンも、太陽から届く紫外線の一部を吸収するようになります。酸素は、古い生態系へ強い選択圧を与えながら、後の生命が広がる新しい条件もつくっていったのです。
生命が、次の生命の地球をつくる
光合成を始めた細胞は、地球を変えようとしていたわけではありません。一つひとつの細胞は、光を受け、電子を動かし、自分が続くための有機物をつくっていただけです。その反応の結果として酸素が生まれ、初めのうちは鉄や鉱物、火山ガスとの反応に使われました。
それでも生産が続き、消費との均衡を越えると、酸素は海と大気へ残り始めます。小さな細胞の内側で起きた反応が、海の化学状態を変え、岩石の風化を変え、大気の組成を変えていきました。
地球は、生命が置かれたままの舞台ではありません。生命が暮らし、その結果を積み重ねることで、次の生命が生きる環境そのものがつくられていきます。
光合成が変えたのは、空気だけではない。
生命が、地球の未来へ働きかけられることを示した。
酸素のある地球は、より多くのエネルギーを利用できる生命へ道を開きました。ただ、当時の地球を変えたシアノバクテリアは、まだ核を持たない小さな細胞です。現在の動物、植物、菌類を形づくる細胞は、さらに別の変化を経て生まれました。
次の旅では、一つの細胞の内側に、別の生命が暮らし始めたように見える出来事をたどります。
出典・参考文献
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- Sánchez-Baracaldo, P. & Cardona, T.(2020) On the origin of oxygenic photosynthesis and Cyanobacteria New Phytologist, 225, 1440–1446.
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