04 群れと社会
公平さは、 なぜこれほど気になるのか
もらえるはずのものを、あえて拒否してしまうことがあります。最終提案ゲームと15の社会での比較研究という視点から、同じ量を分けることがいつでも公平とは限らない理由をたどります。
もらえるはずのものを、あえて拒否する。そんな選択を、実際にしてしまうことがあります。
合理的に考えれば、少しでも受け取った方が得なはずです。それなのに、不公平だと感じた分け方は、損をしてでも拒みたくなることがあります。
第51章では、まだ起きていない未来の行動を、約束によって他者と共有する仕組みをたどりました。ここで、もう一つ確かめておきたいことがあります。
同じ量を分けることは、いつでも公平なのでしょうか。
損をしてでも、拒みたくなることがある
お金の分け方一つでも、私たちは強い感情を動かされます。少なすぎる取り分を提示されると、その場の空気が変わることさえあります。
なぜ、単なる数字の配分に、これほど強くこだわってしまうのでしょうか。
不平等な分け方は、損をしてでも拒否される
EVIDENCE
1982年に考案された「最終提案ゲーム」という実験があります。一人がある金額の分け方を提案し、もう一人はそれを受け入れるか拒否するかを決めます。拒否すれば、双方とも一切受け取れなくなるという設計です。
合理的に考えれば、相手はどんな金額であっても、ゼロより受け取った方が得なはずです。ところが実際の実験では、提案された金額が全体の20%程度以下になると、その提案はおよそ半数のケースで拒否されました。
経済学者のエルンスト・フェアとクラウス・シュミットは、この現象を「不平等回避」という考え方で説明しています。人は自分の取り分の大きさだけでなく、相手との差そのものにも不満を感じる、というものです。損をしてでも不公平さを拒みたくなるのは、単純な利益の計算では説明のつかない、公平さそのものへのこだわりがあるからだと考えられます。

「公平」の中身は、文化によって驚くほど違う
EVIDENCE
ただ、この「公平さへのこだわり」は、どの文化でも同じ形をしているわけではありません。
人類学者のジョセフ・ヘンリックらは、世界の15の異なる小規模社会で、同じ最終提案ゲームを行いました。結果は、社会によって大きく異なりました。
アマゾンのマチゲンガの人々は、比較的自分本位に近い分配を提案する傾向がありました。一方、共同での捕鯨に生活の多くを頼っているインドネシアのラマレラの人々は、より均等に近い分配を提案する傾向が強く見られました。日々の暮らしそのものが協力に依存している文化ほど、公平さの基準が均等な分け方に寄っていくようです。
さらに、パプアニューギニアのアウやグナウの人々のあいだでは、半分より多い、極端に有利な提案が拒否されることもありました。彼らの文化では、大きな贈り物を受け取ることが、後で返さなければならない重い負い目を意味するためです。
「公平だと感じる分け方」は、決して一つの決まった形をしているわけではありません。

頑張った人が、多くもらうとは限らない
「頑張った人ほど多く受け取るべきだ」という感覚は、多くの人にとって自然に思えるかもしれません。ただ、これも決して人類共通の公平観ではありません。
多くの狩猟採集社会では、獲物を実際に仕留めた狩人が、その分け前を多く受け取るとは限りません。むしろ、獲物は集団内で均等に近い形で分けられたり、仕留めた狩人自身の取り分がかえって控えめになったりすることがあります。反対に、その日は成果を上げられなかった狩人にも、十分な分が渡ることがあります。
成果を上げた人が多く受け取るのが公平だ、という考え方は、私たちの社会でよく見られる基準の一つにすぎません。
公平さは、一つの物差しでは測れない
平等に分けること。貢献した分だけ多く受け取ること。必要としている人が多く受け取ること。担っている役割に応じて受け取ること。
どの基準を「公平」だと感じるかは、文化や状況によって大きく変わります。同じ量を均等に分けることが、いつでも公平だとは限りません。
では、個別の約束や公平さの感覚は、どうやって集団全体で共有される規範になっていくのでしょうか。
参考文献
-
Güth W, Schmittberger R, Schwarze B. An experimental analysis of ultimatum bargaining.
Journal of Economic Behavior & Organization. 1982;3(4):367–388.
ScienceDirect -
Fehr E, Schmidt KM. A theory of fairness, competition, and cooperation.
The Quarterly Journal of Economics. 1999;114(3):817–868.
DOI -
Henrich J, Boyd R, Bowles S, et al. “Economic man” in cross-cultural perspective: behavioral experiments in 15 small-scale societies.
Behavioral and Brain Sciences. 2005;28(6):795–815.
DOI