01 地球と生命

月と水と大気は、 どこから来たのか

前の章では、細かな塵が集まり、衝突と合体を重ねながら地球へ育っていくまでをたどりました。ただ、生まれたばかりの地球は、現在の青い星とは大きく異なっていました。表面は高温で、安定した海はまだなく、大気も私たちが呼吸している現在の空気とは別のものでした。

その地球のそばに月が生まれ、水が地表へ集まり、大気が変化していきます。月、水、大気は、どこかから完成した形で与えられたのではありません。それぞれ異なる過程を通り、影響し合いながら、生命が生きる地球へつながっていきました。

地球と月は、互いを変え続けている

前の章で見たように、月は、原始地球への巨大衝突によって宇宙へ飛び出した物質から生まれたとする説明が、現在もっとも広く支持されています。ただし、衝突した天体の大きさや速度、飛び出した物質が月へ集まった詳しい過程については、現在も複数のモデルが検討されています。[1]

生まれたばかりの月は、現在よりも地球に近い場所を回っていたと考えられています。月と太陽の重力は地球の海に潮の満ち引きを起こし、その動きによって地球の自転にはわずかなブレーキがかかるため、地球の一日は長くなってきました。その一方で、地球の自転が持つ運動量の一部は月の軌道へ移り、月は少しづつ遠ざかっています。現在の後退速度は、レーザー測距によって一年に約3.8cmと測定されています。[2]

地球の水に、一つのふるさとはない

地球の海は、どこから来たのでしょうか。以前は、形成直後の地球はほぼ乾いており、水の多くは小惑星や彗星によって外から運ばれたという説明が広く知られていました。現在はそれだけではなく、地球をつくった材料そのものにも、水へつながる水素が含まれていた可能性が検討されています。

2020年には、地球の材料と化学的な共通点を持つエンスタタイト・コンドライトに、地球の水の量を説明しうる水素が含まれているという研究結果が報告されました。水素同位体の特徴も、地球のマントルに近い値を示しています。さらに2025年の研究では、エンスタタイト・コンドライトに含まれる水素の一部が、硫化鉄と関係する形で保持されていることが示されました。[3][4]

若い地球へ、地球の材料、小惑星、彗星など複数の経路から水の材料が集まる様子を表したコンセプトアート

これは、地球が生まれたときから現在のような海を持っていたという意味ではなく、海へつながる材料の一部が地球の形成時から含まれていた可能性があるということです。その後、形成途中の地球には、水や水を含む鉱物を持った小惑星も衝突しました。炭素質コンドライトと呼ばれる隕石の中には、水素同位体の割合が地球の水に近いものがあり、小惑星が重要な供給源だったことを示しています。[5]

氷を多く含む彗星も、水を運んだ候補です。ただし、彗星の水素同位体には幅があり、地球の海と一致しないものもあります。地球の水に一つだけのふるさとを求めることはできず、地球をつくった材料に含まれていた水素に、小惑星などが運んだ水や水素が加わり、彗星も一部を担った可能性があります。どの経路がどれほど寄与したのかは、今も研究が続いています。

水の由来を、同位体から探る

水をつくる水素には、わずかに性質の異なる種類があります。もっとも多い水素は陽子一つでできていますが、重水素は陽子と中性子を一つずつ持っています。通常の水素に対する重水素の割合は、その物質が生まれ、変化してきた環境を探る手がかりになります。

研究者は、海水、地球内部の水、隕石、彗星などの水素同位体を比べ、水の由来を調べています。ただし、割合が似ているだけで同じ場所から来たと断定することはできません。地球へ届いたあとに異なる物質が混ざり、水素の一部が宇宙へ失われれば、その値も変化します。

大気は、失われながら形づくられた

若い地球は、太陽系に残っていた水素やヘリウムを一時的に取り込んだ可能性があります。ただ、これらの軽いガスの多くは、若い太陽から届く強い放射や、大規模な衝突などによって失われたと考えられています。

その後の大気をつくる材料になったのが、地球をつくった物質や、地球内部から放出されたガスです。高温の岩石からは、水蒸気、二酸化炭素、窒素を含むガスが放出されました。また、衝突した天体は大気を失わせる一方で、新たな揮発性物質を加えることもあります。

冷える地球に、水が集まる

地球が冷えて表面の温度が下がると、大気中の水蒸気は凝結し、液体の水として地表に残れるようになります。雨となって降った水は低い場所へ集まり、海へつながる水域をつくっていったと考えられています。

若い地球が冷え、水蒸気が雲と雨になり、地表に水が集まり始める様子を表したコンセプトアート

ただし、初期の地球では大規模な衝突や火山活動が続いていました。地表に集まった水が再び蒸発し、冷えると戻る変化も繰り返されたとみられます。当時の地表は、その後の地殻変動や侵食によってほとんど残っていません。

それでも、オーストラリア西部のジャックヒルズでは、約44億年前までさかのぼるジルコンが見つかっています。その酸素同位体などの分析から、地球の誕生後かなり早い時期に、低温の地殻と液体の水が存在した可能性が示されました。[7]

最初の空気は、呼吸できるものではなかった

液体の水が存在するようになっても、大気は現在とは大きく異なっていました。窒素、二酸化炭素、水蒸気などを含んでいたと考えられていますが、私たちが呼吸に使う酸素分子は、ほとんどありませんでした。

酸素を生み出す光合成生物が現れても、酸素はすぐには大気中へ蓄積しません。海や岩石に含まれる物質との反応に使われたためです。大気中の酸素が持続的に増え始めた大酸化イベントは、およそ24億年前に起きたと考えられています。地球が生まれてから、20億年以上あとのことです。[8]

海と大気が生まれたことは、現在と同じ地球環境が完成したことを意味しません。水の量も、大気の成分も、地表の温度も、その後さらに長い時間をかけて変化していきます。

生命を迎えたのは、変わり続ける地球だった

月は潮の満ち引きを生み、地球の回転へ影響を与えました。水は物質を溶かして運び、さまざまな化学反応が起こる場所になります。大気は地表を覆い、熱や物質が地球と宇宙の間を行き来する環境をつくりました。これらは、後の生命にとって重要な条件になります。

ただ、月も水も大気も、生命のために配置されたものではありません。衝突、重力、地球内部の熱、物質の性質。いくつもの変化が重なり、その環境の中から生命へ続く道が開かれていきました。

生命を迎えたのは、完成された地球ではない。
変わり続ける地球だった。

私たちの体をつくる水も、呼吸する空気も、長い変化の途中で形づくられたものです。そして、地球の変化はここで終わりません。

次の旅へ

地球の内部には、形成時の熱が残されていました。その熱は岩石を動かし、地殻を割り、大陸と海の姿を変え続けます。次の旅では、大地がなぜ動き続けるのかをたどります。

出典・参考文献

  1. NASA Science Moon Formation (閲覧日:2026年7月18日)
  2. NASA Goddard Space Flight Center Measuring the Moon’s Distance (閲覧日:2026年7月18日)
  3. Piani, L. et al.(2020) Earth’s water may have been inherited from material similar to enstatite chondrite meteorites Science, 369, 1110–1113.
  4. Barrett, T. J., Bryson, J. F. J. & Geraki, K.(2025) The source of hydrogen in Earth’s building blocks Icarus, 436, 116588.
  5. NASA Science Ocean Worlds: Water in the Solar System and Beyond (閲覧日:2026年7月18日)
  6. Zahnle, K., Schaefer, L. & Fegley, B.(2010) Earth’s Earliest Atmospheres Cold Spring Harbor Perspectives in Biology, 2, a004895.
  7. Wilde, S. A. et al.(2001) Evidence from detrital zircons for the existence of continental crust and oceans on the Earth 4.4 Gyr ago Nature, 409, 175–178.
  8. Catling, D. C. & Zahnle, K. J.(2020) The Archean atmosphere Science Advances, 6, eaax1420.