01 地球と生命
宇宙に、 生命の材料が生まれる
前の旅では、遠い過去をたどるために、確認されていることと、証拠を説明するための仮説、まだ答えの定まっていない問いを、どのように読み分けるのかを確かめました。ここから、地球より前の具体的な物語へ入ります。
宇宙の始まりに、生命を形づくる材料がすべてそろっていたわけではありません。初期の宇宙に広がっていたのは、主に水素とヘリウム、そしてごく少量のリチウムでした。炭素も、酸素も、鉄も、まだほとんど存在していません。
それでも現在の私たちの身体には、それらの元素が共にあります。身体の構造を形づくる炭素、呼吸や代謝に関わる酸素、血液や細胞の働きに欠かせない鉄。それぞれは異なる星の内部でつくられ、異なる終わり方を通り、長い時間をかけて一つの場所へ集まってきました。星は、どのように新しい元素を生み、その終わりを次の世界の始まりへ変えていったのでしょう。
まだ材料の足りなかった宇宙
宇宙が始まって間もないころ、急速に膨張しながら冷えていく宇宙では、主に水素とヘリウムの原子核が形づくられました。少量のリチウムも生まれましたが、生命や岩石を形づくる多くの元素は、この段階にはまだ存在していませんでした。およそ38万年後、原子核が電子を捉えて中性の原子になると、光は物質に何度も妨げられることなく、遠くまで進みやすくなります。現在、宇宙マイクロ波背景放射として観測されている光は、このころの宇宙の状態を伝えています。[1]
ただ、光が進めるようになった宇宙に、すぐ星が満ちたわけではありません。広がっていたのは、ほぼ水素とヘリウムからなるガスでした。まだ恒星の光がない宇宙では、わずかな密度の違いを重力が少しづつ育て、ガスを一か所へ集めていきます。やがて、集まったガスは自らの重さで押し縮められ、中心部の温度と圧力が上がりました。そこで最初の星が灯ります。その光は宇宙を明るくしただけではなく、宇宙にまだ少なかった元素をつくる新しい時代の始まりでもありました。
星の内部で、元素がつくり変えられる
星の中心では、膨大な重力が物質を内側へ押し縮めています。中心部が十分に高温・高圧になると、水素の原子核どうしが結びつき、ヘリウムへ変わる核融合が始まります。核融合によって放出されるエネルギーは星の内部から外側へ向かう力を生み、内側へ押しつぶそうとする重力と釣り合うことで、星は長い時間にわたって姿を保ち、光を放ち続けます。
ただ、中心部で核融合に使える水素は無限ではありません。水素が減るにつれて内部の均衡は変わり、中心はさらに縮み、温度を上げていきます。星の質量や内部の条件によっては、今度はヘリウムの核融合が始まり、炭素や酸素がつくられます。[2]
星の中で起きているのは、何もない場所から物質を生み出すことではありません。すでにある軽い原子核が結びつき、別の原子核へ変わっていく過程です。炭素や酸素は生命が現れてからつくられたものではなく、生命よりはるかに前の宇宙で、星が光り続ける過程の中に生まれ、少しづつ増えていきました。
星の質量と終わりが、元素の行方を変える
すべての星が、同じ元素を同じところまでつくるわけではありません。星の内部でどこまで核融合が進むかは、星の質量によって大きく変わります。太陽ほどの質量をもつ星では、長い時間をかけて水素からヘリウムがつくられ、その後、内部の条件が変わると炭素や酸素が生まれます。一方、太陽よりはるかに重い星では、中心温度がさらに高くなり、炭素、ネオン、酸素、ケイ素などを燃料とする核融合が段階的に進みます。
大質量星の内部では、中心へ近づくほど異なる核融合が行われ、層を重ねるように元素が分布します。外側では比較的軽い元素の反応が続き、内側ではより重い元素がつくられ、最も深い部分には、やがて鉄に近い元素が蓄積します。鉄付近の原子核は非常に強く結びついているため、それより軽い原子核を融合させるときのようには、星を支えるエネルギーを得られません。中心部に鉄に近い元素が増えると、核融合によって星を支えてきた流れは行き止まりへ近づきます。[3]
しかし、星の中で元素がつくられても、内部に閉じ込められたままでは、次の星や惑星の材料にはなりません。新しい元素が宇宙へ渡されるには、星そのものが変化し、物質を外へ放つ必要があります。太陽程度の質量の星は、年齢を重ねるにつれて膨らみ、星の内部でつくられて表面近くまで運ばれた炭素などを含む外側のガスを、ゆっくりと宇宙へ放出します。
より質量の大きな星では、中心部が自らを支えられなくなると急激な重力崩壊が起こり、その一部は超新星となって、星の内部にあった物質を周囲の宇宙空間へ激しく放出します。
放出された元素は、すぐに新しい世界をつくるわけではありません。冷えながら宇宙を漂い、別の星から放たれた物質や、もともと存在していたガスと混ざっていきます。そして長い時間のあと、重力によって再び一か所へ集められると、そこに次の世代の星が生まれ、その周囲には惑星をつくる材料が残ります。
一つの星が終わり、その内部にあった物質が次の星へ渡される。宇宙では、何世代もの星を通して、利用できる元素が増えてきました。私たちの太陽も最初の世代の星ではなく、その材料には、太陽より前に存在した星々の痕跡が含まれています。
鉄より重い元素は、どこで生まれたのか
鉄より重い元素がどこで生まれたのかをたどると、物語はさらに複雑になります。それらの元素の多くは、軽い原子核どうしが順番に融合するだけではつくれません。星の内部では、原子核が中性子を取り込み、その後の崩壊によって別の元素へ変わる反応が起きます。中性子を比較的ゆっくり取り込む過程は、年老いた星の内部などで進み、鉄より重い元素の一部をつくります。
一方、短い時間に大量の中性子を取り込む反応は、金、白金、テルルなど、さらに重い元素をつくる重要な道筋だと考えられています。その舞台の一つが、中性子星を含む高密度天体どうしの合体です。2017年に観測されたGW170817では、二つの中性子星の合体によって生じた重力波と、その後に放たれた電磁波がともに捉えられました。合体後に観測されたキロノヴァの光は、放出された物質の中で重い元素がつくられたことを強く示しています。[4]
さらに、別の高密度天体合体に伴う現象をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測し、重い元素であるテルルに対応すると考えられる特徴が報告されました。[5]
重い元素の起源を、一つの出来事だけで説明することはできません。異なる種類の星と、その異なる終わり方が、宇宙に残された元素の組み合わせをつくってきました。まだ答えが定まっていない部分があるからこそ、新しい光や重力波が捉えられるたび、宇宙の過去は少しづつ具体的な姿を見せています。
異なる宇宙の時間が、私たちの中で重なる
私たちの身体に含まれる元素は、それぞれ異なる時代と出来事を通ってきました。水素の多くは宇宙が始まって間もないころに生まれ、炭素や酸素は星の内部で核融合が進む中でつくられました。鉄に近い元素の形成には大質量星の長い進化とその終わりが深く関わり、さらに一部の重い元素は、中性子星の合体を含む宇宙でも特に激しい出来事を通して生まれたと考えられています。
それらは別々の場所で生まれ、別々の時間を過ごしました。星の外へ放たれ、宇宙を漂い、ほかの物質と混ざり合い、やがて太陽系をつくる一つの雲へ集まっていきます。
私たちの身体は、一つの星だけから届いたものではない。
何世代もの星と、異なる宇宙の出来事が重なった場所である。
これは、私たちが宇宙によって特別に選ばれたという意味ではありません。むしろ、私たちもまた、宇宙の物質が長い時間をかけて変化し、組み直されてきた流れの中にいるということです。今、身体の中では酸素が使われ、鉄を含む分子が働き、炭素を中心とする構造が生命を支えています。そのどれもが、地球の上だけで完結した歴史を持っているわけではありません。
生命が現れるより前に、宇宙ではすでに、生命の体を形づくる材料がつくられ、混ざり、次の世界へ受け渡されていました。
次の旅へ
生命を形づくる材料は、何世代もの星を通して宇宙に増えていきました。ただ、炭素や酸素が宇宙を漂っているだけでは、海も大地も生命も生まれません。ばらばらに広がっていた物質が、もう一度、一つの場所へ集まる必要があります。およそ46億年前、前の世代の星々が残したガスと塵の一部が重力によって縮み始め、その中心には太陽が生まれました。
周囲に残された円盤では、目に見えないほど小さな粒が衝突し、離れ、また集まっていきます。次の章では、その不安定な円盤の中から、地球がどのように形づくられたのかをたどります。
出典・参考文献
- NASA Science Cosmic History (閲覧日:2026年7月19日)
- NASA Goddard Space Flight Center Basics — Composition — Nucleosynthesis (閲覧日:2026年7月19日)
- NASA Science Chandra Reveals Elementary Nature of Cassiopeia A (閲覧日:2026年7月19日)
- NASA Science NASA Missions Catch First Light from a Gravitational-Wave Event (閲覧日:2026年7月19日)
- Levan, A. J. et al.(2024) Heavy-element production in a compact object merger observed by JWST, Nature, 626, 737–741.
- NASA Science Where Does Gold Come From? NASA Data Has Clues (閲覧日:2026年7月19日)