04 群れと社会
仲間から外れることは、 なぜこれほどつらいのか
無視、拒絶、孤立は、なぜ深い感情と身体反応を起こすのでしょうか。バウマイスターとリアリーの所属欲求理論、ウィリアムズのサイバーボール研究、そして評価される不安が身体を変えるディカーソンとケメニーのメタ分析から、仲間外れのつらさの背景を見ていきます。
グループのやり取りで、自分の発言にだけ誰も反応しない。ランチに誘われる輪の中に、いつの間にか自分だけが入っていない。誰かに悪口を言われたわけでも、はっきり拒否されたわけでもないのに、じわじわと胸が締めつけられていきます。
前章では、比較という営みが、自分の立ち位置を確かめるための仕組みであることを見てきました。この章で見ていくのは、その比較の結果、自分の位置を見失い、集団から外れていると感じたとき、なぜこれほど深い感情と身体反応が起きるのか、という問いです。
所属という欲求は、なぜこれほど根深いのか
心理学者ロイ・バウマイスターとマーク・リアリーは、1990年代、人間には安定した対人関係を築き、それを保とうとする根源的な欲求があるという理論を提示しました。
この欲求は、単なる好みや性格の傾向ではなく、感情、思考、健康にまで幅広く影響を及ぼす、基礎的な動機として位置づけられています。人は多くの条件のもとで、比較的たやすく人間関係を築こうとし、いったん築いた関係を手放すことに強い抵抗を示します。逆に、安定した関係を失ったり、そもそも築けなかったりする状態は、心身のさまざまな不調と結びついていることが、多くの研究の積み重ねから示されてきました。
所属は、余裕があるときにあれば嬉しいものというより、私たちの心の働きの土台に組み込まれた、欠かせない条件のようです。
無視されることは、理屈より先に傷つく
心理学者キプリング・ウィリアムズたちの研究チームは、「サイバーボール」というオンラインのボール回しゲームを使い、無視や除外がどのように人を傷つけるのかを詳しく調べてきました。参加者は、画面上の他の2人とボールを回し合う課題に取り組みますが、途中から自分にだけボールが回ってこなくなります。
この単純な実験を、120件、1万人以上を対象に積み重ねたメタ分析では、無視される経験が、所属感、自尊心、コントロール感、存在意義という4つの心理的欲求を大きく脅かし、その効果の大きさは非常に強いことが確認されています。
特に印象的なのは、一緒に遊んでいる相手が、自分が心から軽蔑している集団のメンバーだと伝えられていても、あるいは相手が人間ではなくコンピューターだと分かっていても、無視されると同じように傷ついてしまうという結果です。「この人たちに嫌われても仕方ない」「そもそも本物の人間ではない」と頭では分かっていても、心はそれを理由に反応を止めてはくれません。
EVIDENCE
無視や除外が、理屈による納得よりも先に、ほぼ反射的な痛みとして生じることは、こうした数多くの実験によって裏づけられています。

通知が来ない、その数十分間
夜、グループのやり取りに送ったメッセージに、誰からも反応が来ない。既読の表示だけがつき、そこから会話が止まっている。スマートフォンの画面を、何度も無意識に確認してしまう。
理屈では、忙しいだけかもしれない、たまたま見逃しただけかもしれないと分かっています。それでも、胸のあたりがそわそわして、他のことに集中しづらくなる。この反応は、意志の弱さや考えすぎではなく、無視されることそのものへの、人間に広く見られる自然な反応なのかもしれません。
評価される不安が、体を実際に変える
心理学者サリー・ディカーソンとマーガレット・ケメニーは、208件の実験室研究を集めたメタ分析を行い、どのような種類のストレスが、体に強い変化を引き起こすのかを調べました。
結果、単に難しい課題や不快な刺激よりも、「誰かに悪く評価されるかもしれない」という要素を含む課題のほうが、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を強く引き起こすことが分かりました。人前でのスピーチのように、失敗を他人に見られる可能性がある状況は、体のストレス反応を特に強く動かす条件だったのです。

OPEN QUESTION
ただし、この身体反応が、社会的な痛みと身体的な痛みが完全に同じ仕組みであることを意味するわけではありません。両者に共通する部分がある一方で、異なる経路や条件も報告されていて、単純に「同じ痛みだ」と言い切ることは避けたいところです。それでも、評価される不安が、気のせいでは済まされない、実際の身体反応として現れることは確かなようです。
外れているような気がする自分へ
仲間から外れているような感覚に、深く傷つく自分を、弱いと感じたことがあるかもしれません。ただ、ここまで見てきたことを踏まえると、その痛みは、人間が長く集団の中で生きてきたことの、自然な現れだと分かってきます。
所属を求める気持ちは、甘えでも依存でもありません。無視されたときに感じる痛みは、理屈で説明がついても消えるものではなく、評価される不安は、実際に体を動かすほどの力を持っています。これらはすべて、一人では生き延びにくい生き物として、私たちが受け継いできた反応なのでしょう。
こうして所属を求め、外れることを恐れる私たちは、やがて「味方」と「そうでない人」を、どうやって区別するようになっていくのでしょうか。次の章では、その境界がどう生まれるのかへ近づいてみたいと思います。
参考文献
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Baumeister RF, Leary MR.
The need to belong: Desire for interpersonal attachments as a fundamental human motivation.
Psychological Bulletin. 1995;117(3):497-529. -
Hartgerink CHJ, Van Beest I, Wicherts JM, Williams KD.
The ordinal effects of ostracism: A meta-analysis of 120 Cyberball studies.
PLOS ONE. 2015;10(5):e0127002. -
Dickerson SS, Kemeny ME.
Acute stressors and cortisol responses: A theoretical integration and synthesis of laboratory research.
Psychological Bulletin. 2004;130(3):355-391.
本文では、複数の実験・メタ分析で繰り返し確認されている行動的・生理的反応と、社会的な痛みと身体的な痛みの関係のように、まだ議論が続いている論点とを、同じ確度の事実として扱わないよう区別しています。