『「心の理論」は必要か』Ivan Leudar・Alan Costall|人の心を読みすぎる前に立ち止まるために読んだ本
Ivan Leudar・Alan Costall編『「心の理論」は必要か』を紹介します。人の心を読みすぎて疲れてしまうとき、わかり合えなさや対人関係を少し違う角度から見直すきっかけになる本です。
『「心の理論」は必要か』Ivan Leudar・Alan Costall
人の気持ちを考えすぎて、疲れてしまうことがあります。
今の言い方はどう受け取られただろう。
相手は本当は何を思っているのだろう。
自分はちゃんと空気を読めているのだろうか。
そんなふうに考え続けていると、相手と話しているのに、頭の中ではずっと推理をしているような状態になります。
相手の心をわかろうとすることは、大切なことです。
でも、相手の心を読まなければならないと思いすぎると、苦しくなることがあります。
『「心の理論」は必要か』は、その前提を少し疑うための本です。
この本は、やさしい読み物というより、かなり専門的な本です。
けれど、Take a stepで大切にしたい「人の心を読みすぎて疲れてしまうこと」や「わかり合えない苦しさ」を考えるうえで、大事な視点をくれる本だと思います。
「心を読む」とは何をしているのか
心の理論という言葉は、一般には、他者にも自分とは異なる考え、意図、信念、感情などがあると理解し、それをもとに相手の行動を考える働きとして説明されることが多い言葉です。
ただ、この本はその考え方をそのまま受け入れるのではなく「本当にその枠組みだけで、人との関わりを説明できるのか」というところに立ち止まります。
たとえば、相手が何を知っているのか。
相手が何を望んでいるのか。
相手がどう受け取っているのか。
そうしたものを考えるとき、私たちは相手の中にある「心」を想定します。
もちろん、それは人と関わるうえで必要な働きでもあります。
でも、この本はそこで立ち止まります。
本当に、人と関わるためには、相手の内側にある心を理論のように推測することが必要なのか。
私たちは、相手の心を頭の中で読んでから関わっているのか。
それとも、実際の関わり合いの中で、相手の表情、言葉、動き、状況、やりとりそのものから、少しずつ相手を知っているのか。
この本は、そうした問いを投げかけてきます。
わかり合えないことを、自分だけのせいにしない
対人関係で苦しいとき、私たちはよく自分を責めます。
もっと相手の気持ちを読めたらよかった。
もっと空気を読めたらよかった。
もっと正しく受け取れたらよかった。
もっと上手に伝えられたらよかった。
そう考えているうちに、人と関わることそのものが怖くなることがあります。
でも、人とのやりとりは、ひとりの頭の中だけで決まるものではありません。
言葉の選び方。
その場の空気。
これまでの関係。
相手の状態。
自分の状態。
その場にある役割や立場。
いろいろなものが重なって、やりとりはつくられています。
だから、うまく伝わらなかったことを、すべて「自分が相手の心を読めなかったから」と背負いすぎなくてもいいのだと思います。
わかり合えないことには、個人の能力だけではなく、関係や場面の複雑さもあります。
その視点を持つだけでも、自分を責める言葉が少し弱まる気がします。
関わり合いの中で、心を知っていく
この本の目次には「参与者に理論はいらない――関わり合いの中で心を知ること」という章があります。
この言葉は、Take a stepとしてとても大事にしたいところです。
人の心は、頭の中で完全に読み当てるものではないのかもしれません。
相手と話す。
返事を聞く。
表情を見る。
少し間を置く。
違っていたら言い直す。
聞き返す。
そうした実際のやりとりの中で、少しずつ相手を知っていくものなのかもしれません。
それなら、最初から完璧に読めなくてもいい。
相手の本音を一度で見抜けなくてもいい。
不安になったら確認していい。
わからないまま、少し丁寧に関わってみてもいい。
そう考えると、人間関係の緊張が少しだけゆるむことがあります。
この本が合いそうな人
- 人の気持ちを読みすぎて疲れてしまう人
- 空気を読めない自分を責めてしまう人
- 対人関係のすれ違いを、少し広い視点から考えたい人
- 心理学の概念を、そのまま受け取るだけでなく問い直したい人
- 自閉スペクトラム症やコミュニケーション研究に関心がある人
- 専門的な心理学・社会学・哲学寄りの本も読んでみたい人
読むときに気をつけたいこと
この本は、気軽な心理学エッセイではありません。
かなり専門的です。
文章も内容も、ゆっくり読むタイプの本だと思います。
「人間関係が楽になる方法」をすぐに知りたいときには、少し重く感じるかもしれません。
また、心の理論、自閉スペクトラム症、臨床、動物、ディスコース心理学、対話的アプローチなど、扱う範囲も広いです。
だから、最初から最後まで一気に理解しようとしなくても大丈夫です。
気になる章だけ読む。
今の自分に関係しそうなところだけ読む。
難しいところは、いったん飛ばす。
そういう読み方でいいと思います。
そして、この本も医療的な診断や治療の代わりになるものではありません。
対人不安や人間関係の苦しさが強く、生活に大きな影響が出ている場合は、医療機関や相談窓口、専門機関へ相談することも大切です。
Take a stepとしての感想
この本の良さは「相手の心を読めること」を当たり前の前提にしないところにあると思います。
私たちは、人と関わるとき、つい相手の心を読もうとします。
そして読めないと、自分を責めます。
伝わらないと、自分の能力が足りないと思います。
相手の反応が悪いと、自分が何か間違えたのだと考えてしまいます。
でも、人との関わりは、そんなに単純なものではありません。
心は、ひとりの頭の中だけに閉じているものではなく、言葉や行動や場面や関係の中に現れてくるものでもあります。
そう考えると、人の心を完璧に読めない自分を、少し責めすぎなくてよくなる気がします。
わからないまま関わる。
間違えたら聞き返す。
すれ違ったら調整する。
相手の心を決めつけず、やりとりの中で少しずつ知っていく。
それは、不器用でも、かなり誠実な関わり方なのかもしれません。
人の気持ちを読みすぎて疲れているとき。
わかり合えないことを、自分だけのせいにしてしまうとき。
この本は「心を読む」という前提そのものを、少し離れた場所から見直すきっかけになる一冊です。