『バカの壁』養老孟司|わかり合えない苦しさを少し離れて見たくて読んだ本
養老孟司著『バカの壁』を紹介します。人とわかり合えない苦しさや、自分の見えている世界を少し離れて見直すきっかけになる本です。
『バカの壁』養老孟司
人と話していて、どうしても伝わらないことがあります。
ちゃんと説明しているつもりなのに、届かない。
相手の言っていることが、どうしても理解できない。
何度話しても、同じところですれ違う。
そんなとき、私たちはつい「どうしてわかってくれないんだろう」と思ってしまいます。
そして、相手を責めたり、自分を責めたりします。
でも、もしかすると、人と人の間には、そもそも簡単には越えられない壁があるのかもしれません。
養老孟司さんの『バカの壁』は、その「わかり合えなさ」について考えるための本です。
タイトルは強いです。
少し乱暴に見えるかもしれません。
でも、この本で扱われているのは、誰かを見下すための「バカ」ではなく、人が自分の見えている世界だけで物事をわかったつもりになることへの問いだと思います。
人は、自分が見たいものを見る。
聞きたいことを聞く。
わかっていると思った瞬間に、それ以上見ようとしなくなる。
そういう心の働きを、少し離れて考えさせてくれる一冊です。
「話せばわかる」とは限らない
この本の紹介で印象的なのは「話せばわかるなんて大ウソ」という言葉です。
少し極端に聞こえるかもしれません。
でも、人間関係で悩んだことがある人なら、どこかで思い当たるところがあると思います。
話し合えば必ずわかり合える。
誤解は説明すれば解ける。
気持ちは言葉にすれば伝わる。
そう信じたい気持ちはあります。
けれど現実には、どれだけ言葉を尽くしても伝わらないことがあります。
相手には相手の前提がある。
自分には自分の前提がある。
同じ言葉を使っていても、見ているものや大切にしているものが違う。
だから、話しているのに通じないことが起こります。
それは、とても苦しいことです。
でも「全部わかり合えなくて当然の部分もある」と思えると、少しだけ力が抜けることもあります。
「わかっている」と思う怖さ
この本で大切だと思うのは「わかっている」と思い込む怖さです。
人は、自分が理解できる範囲の中で世界を見ています。
自分の経験。
自分の常識。
自分の感情。
自分がこれまで信じてきたもの。
そうしたものを通して、目の前の出来事を判断しています。
だから、自分では客観的に見ているつもりでも、実際にはかなり偏った見方をしていることがあります。
それ自体が悪いわけではありません。
人間はそういうものなのだと思います。
ただ「自分はちゃんとわかっている」と思いすぎると、他の見方が入ってこなくなります。
相手の事情を見なくなる。
違う考え方を受け取れなくなる。
自分の正しさだけで、相手を判断してしまう。
そこに、見えない壁ができていくのかもしれません。
人間関係の苦しさを、少し離れて見る
人間関係でつらいのは、相手とわかり合えないことだけではありません。
わかり合えないことを、自分のせいにしてしまうこともあります。
自分の伝え方が悪かったのかもしれない。
もっと我慢すればよかったのかもしれない。
相手を理解できない自分が冷たいのかもしれない。
そんなふうに、自分を責めすぎてしまうことがあります。
でも、人と人の間には、どうしても越えにくい前提の違いがあります。
育ってきた環境も違います。
経験してきたことも違います。
大切にしているものも違います。
同じ出来事を見ても、同じようには受け取れません。
そう考えると「わかり合えないことがある」こと自体を、少し現実的に受け止められる気がします。
あきらめるというより、期待しすぎない。
相手を変えようとしすぎない。
自分だけが全部背負わない。
その距離感は、心を守るためにも大切だと思います。
人に気を使いすぎて疲れるときは人に気を使いすぎて疲れるときでも、相手との距離感について書いています。
この本が合いそうな人
- 人と話していて、どうしても伝わらない苦しさを感じている人
- 相手とわかり合えないことを、自分のせいにしすぎてしまう人
- 自分の考え方や常識を、少し離れて見直したい人
- 人間関係のすれ違いを、感情だけではなく構造として考えてみたい人
- 少しクセのある言葉でも、物事の見方を揺さぶられる本を読みたい人
読むときに気をつけたいこと
この本は、やさしく寄り添ってくれるタイプの本ではありません。
言葉もはっきりしています。
読む人によっては、少し突き放されたように感じる部分もあると思います。
また、話題が広く、章ごとにいろいろな方向へ話が進むので、きれいに整理されたハウツー本を期待すると、少し戸惑うかもしれません。
だから、心がかなり疲れているときに、無理に全部を受け取ろうとしなくても大丈夫です。
気になるところだけ読む。
引っかかる言葉だけ残しておく。
今は合わないと思ったら閉じる。
そのくらいの距離感で読んでいい本だと思います。
この本は、医療的な診断や治療の代わりになるものではありません。
人間関係の苦しさや不安、落ち込みが強く、生活に大きな影響が出ている場合は、医療機関や専門機関へ相談することも大切です。
Take a stepとしての感想
この本の良さは「わかり合えないこと」を、ただ悲しいこととして終わらせないところにあると思います。
人はそれぞれ、自分の壁の中から世界を見ています。
自分にも壁がある。
相手にも壁がある。
その前提に立つだけで、人間関係の見え方が少し変わります。
相手がわかってくれないからといって、すぐに自分の価値がなくなるわけではありません。
自分が相手を理解できないからといって、すぐに自分が冷たい人間になるわけでもありません。
人と人の間には、どうしてもズレがあります。
そのズレをなくそうとしすぎると、心はとても疲れてしまいます。
だからこそ、全部わかり合えなくてもいい。
わからない部分があるまま、少し距離を置いて考えてみてもいい。
そう思えることは、自分を責めすぎないためにも大切だと思います。
誰かとわかり合えなくて苦しいとき。
自分の正しさにも、相手の正しさにも疲れてしまったとき。
この本は、人間関係を少し広い視点から見直すきっかけになる一冊です。