04 群れと社会
信頼は、 何を手がかりに生まれるのか
初めて会った人を、なんとなく信頼できると感じることがあります。投資ゲーム実験と顔の第一印象研究という視点から、相手の心が見えない私たちが、何を手がかりに信頼を判断しているのかをたどります。
初めて会った人に、なんとなく信頼できると感じることがあります。反対に、理由もなく警戒してしまうこともあります。
第48章では、協力がどうやって裏切りを越えて続くのかをたどりました。ここで、もう一つ確かめておきたいことがあります。
相手の心を直接のぞくことはできません。それなのに、私たちはどうやって、この人を信頼できるかどうかを判断しているのでしょうか。
相手の心は、直接のぞけない
誰かを信頼するかどうかを決めるとき、私たちは、その人の心の中を直接見ているわけではありません。表情、言葉、態度、周囲からの情報。目に見える断片をつなぎ合わせて、見えないはずの相手の内側を推し量っています。
この推し量りは、いったい何を手がかりに行われているのでしょうか。
見知らぬ相手にも、信頼は生まれる
EVIDENCE
1995年、経済学者のジョイス・バーグらは、ある実験を行いました。参加者Aに一定額のお金を渡し、匿名の参加者Bへ、好きな額を送ってよいと伝えます。Aが送った額は実験の中で3倍に増え、Bはその中から、好きな額をAへ返してもよい、まったく返さなくてもよい、という設計です。
連絡を取り合うこともできない、完全に匿名の相手です。合理的に考えれば、送る額はゼロになってもおかしくありません。ところが実際には、多くの参加者が、手元の資金の半分以上をBへ送りました。
見ず知らずの相手であっても、人は一定の信頼を差し出す。この結果は、その後の複数の再現実験でも、繰り返し確かめられています。

過去の情報が、信頼の重さを変える
同じ実験には、もう一つ興味深い工夫がありました。参加者Bについて、過去の行動に関する簡単な情報をAへ伝える、という条件です。
すると、Aが送る額も、Bが実際に返す額も、両方とも増えました。相手についての手がかりが少しでもあるだけで、信頼はより厚くなり、その信頼に応えようとする動きも強くなったのです。
完全に何も知らない相手より、わずかでも過去の行動を知っている相手のほうが、信頼しやすくなる。当たり前のようでいて、実験によってはっきりと裏づけられた事実です。
顔を見た瞬間に、信頼は判断されている
ただ、私たちが信頼の手がかりにしているのは、過去の行動の記録だけではありません。もっと瞬間的な判断も働いています。
2006年、心理学者のジャニン・ウィリスとアレクサンダー・トドロフは、見知らぬ人の顔写真を、わずか100ミリ秒、つまり0.1秒だけ参加者に見せる実験を行いました。この一瞬の情報だけで、参加者は「信頼できそうか」を判断できました。
しかも、この0.1秒での判断は、時間の制限なくじっくり見て下した判断と、高い相関を示しました。見る時間を1秒まで延ばしても、判断の中身そのものはほとんど変わらず、変化したのは、その判断に対する自信の強さだけでした。
私たちは、顔を見た瞬間、ほとんど自動的に、信頼できるかどうかの判断を下しているのです。

速い判断は、正しい判断とは限らない
OPEN QUESTION
ここは、慎重に受け取っておきたい部分です。トドロフたちは、こうした瞬間的な判断が実際の正確さとどう結びついているのかを、あらためて検証しています。
その結果分かってきたのは、この種の第一印象は、多くの人のあいだで一致しやすい(同じ顔を見れば、多くの人が同じように信頼できそうと感じる)一方で、その判断が、実際にその人物の信頼できる度合いを正確に言い当てているとは限らない、ということです。
判断が速く、確信を持って下されることと、その判断が正しいことは、まったく別の話なのです。
信頼は、一つの手がかりだけで決まらない
過去の行動についての情報。そして、顔を見た瞬間の直感的な印象。
この二つは、性質も、確からしさも異なります。前者は時間をかけて積み重なった実績であり、後者はほとんど検証を経ていない、自動的な反応です。それでも私たちは、この両方を、意識することなく組み合わせながら、目の前の相手を信頼するかどうかを判断しています。
まだ起きていない約束をどう受け止めるか、その場を支える制度がどう働くかも、信頼の判断には関わってきます。それについては、この先の章で、あらためてたどっていきます。
では、直接知らない相手にまで影響する評判は、なぜこれほどの力を持つのでしょうか。
参考文献
-
Berg J, Dickhaut J, McCabe K. Trust, reciprocity, and social history.
Games and Economic Behavior. 1995;10(1):122–142. -
Willis J, Todorov A. First impressions: making up your mind after a 100-ms exposure to a face.
Psychological Science. 2006;17(7):592–598.
PubMed -
Olivola CY, Todorov A. Fooled by first impressions? Reexamining the diagnostic value of appearance-based inferences.
Journal of Experimental Social Psychology. 2010;46(2):315–324.