05 問いと哲学

人は、 なぜ人生に意味を求めるのか

幸福と人生の意味は同じではありません。一貫性・目的・重要性という3つの要素、そしてフランクルが極限状況で見出した「意味を求める意志」から、答えのない問いを考えます。

前の章では、心地よさも、納得も、条件も、記憶の物語も、どれか一つだけが幸せの正体ではない、というところまで見てきました。では、その心地よさや納得だけでは埋まらないとき、人は何を求めるのでしょうか。

多くの人が、人生のどこかで「これは幸せかどうか」とは別に、「これは意味のあることだろうか」と自分に問いかけたことがあるのではないでしょうか。この二つの問いは、似ているようで、実は違う答えを求めています。

2013年、心理学者ロイ・バウマイスターらは、397人を対象にした調査で、幸福を予測する要因と、人生の意味を予測する要因を分けて比較しました。

EVIDENCE

その結果、幸福は「今、自分の欲求が満たされているか」と強く結びついていた一方、人生の意味は、過去・現在・未来をひとつながりのものとして捉える視点や、自分らしさを表現すること、そして他者に何かを与えることと強く結びついていました。特に興味深いのは、心配やストレス、不安の高さが、幸福とは反対の方向に働く一方、人生の意味とは同じ方向に働いていたという点です。大変さや苦労が、必ずしも意味を遠ざけるわけではないということが、このデータから見えてきます。

つまり、心地よく満たされていることと、意味を感じていることは、重なる部分はあっても、同じものではありません。

すぐそばで瞬く光の群れと、遠くまで途切れずに伸びる一本の光の対比

では、その「意味」とは、具体的に何でできているのでしょうか。

心理学の研究では近年、人生の意味は一貫性、目的、重要性という3つの要素からなる、という見方が有力になっています。一貫性は、自分の人生がある程度筋の通ったものとして理解できる感覚です。目的は、自分がどこかへ向かっているという方向感覚です。重要性は、自分の存在や行動が、何か価値あるものにつながっているという感覚です。

この3つは、それぞれ独立していて、どれか一つだけがあれば十分というわけではありません。目的があっても、自分の存在が誰にとっても重要だと感じられなければ、意味は薄れてしまいます。重要性を感じていても、人生の筋道が見えなければ、それもまた別の空虚さにつながります。

この「意味」という問いに、極限の状況から向き合った人物がいます。精神科医のヴィクトール・フランクルです。フランクルの著書『夜と霧』については、Take a stepでも一冊の本として紹介しています

フランクルは、ナチスの強制収容所での過酷な体験を生き延びました。その経験をもとに、人間の根源的な動機は、快楽でも権力でもなく、「意味を求める意志」そのものだと主張しました。

フランクルは、意味を見出す道として、何かを成し遂げること、誰か・何かを愛すること、そして避けられない苦しみにどう向き合うか、という3つを挙げています。特に最後の一つは重要です。フランクル自身、収容所という、自分では選べない苦しみの中にあっても、その苦しみにどう向き合うかという態度だけは、最後まで自分の手の中に残されていると考えました。

荒れた闇の中でも、胸の奥で消えずに灯り続ける一点の光

ここで一つ、慎重になりたいことがあります。すべての出来事に意味があるとは言い切れません。理不尽な死、避けようのない喪失、ただの偶然としか言いようのない出来事。そうした出来事すべてに、後から無理やり意味を見出そうとすることは、かえって自分を追い詰めてしまうこともあります。

フランクルが示したのは、「どんな苦しみにも意味がある」という結論ではなく、「意味を見出そうとする力そのものが、人間には備わっている」ということだったのだと思います。出来事そのものに意味があるかどうかと、その出来事にどう向き合うかを自分で選べるかどうかは、別の話です。

現代を生きる私たちにとっても、この視点は関わってきます。「意味のある人生を送らなければ」と自分を追い詰めて、無理に何かに意味を見出そうとしてしまうことと、「意味なんて考えても仕方がない」と、その問い自体を投げ出してしまうこと。この二つも、正反対に見えて、どちらも極端です。

意味は、あらかじめどこかに用意されているものではなく、一貫性、目的、重要性という要素を、日々の中で少しずつ積み重ねながら、自分自身の手で形づくっていくものなのかもしれません。

では、こうして選択、自己、意識、幸福、そして意味という、答えの出ない大きな問いを一つひとつ見つめてきた私たちは、こうした答えのない問いと、どう向き合いながら生きていけばいいのでしょうか。

参考資料

  1. Baumeister, R. F., Vohs, K. D., Aaker, J. L., & Garbinsky, E. N.
    “Some key differences between a happy life and a meaningful life.”
    The Journal of Positive Psychology, 2013.
    論文を確認する
  2. George, L. S., & Park, C. L.
    “Meaning in life as comprehension, purpose, and mattering: Toward integration and new research questions.”
    Review of General Psychology, 2016.
    論文を確認する
  3. Frankl, V. E.
    Man’s Search for Meaning.
    Beacon Press, 1946(英訳1959年).
    書籍情報を確認する