『思いつきで行動してしまう脳と考えすぎて行動できない脳』菅原洋平|行動のクセを責めすぎないために読んだ本
『思いつきで行動してしまう脳と考えすぎて行動できない脳』を通して、思いつきで動くことと、考えすぎて止まることを、性格や根性ではなく情報処理の偏りから考えます。「脳タイプ」を固定的な医学分類と誤解しないための注意にも触れています。
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思いついたときには、もう動き始めていることがあります。
あとから必要な確認が足りなかったことに気づき、「どうして少し考えなかったのだろう」と後悔する。
反対に、失敗しない方法を考え続け、調べることや準備ばかりが増えて、最初の一歩を踏み出せないこともあります。
動いたあとには、軽率だった自分を責める。
動けなかったあとには、勇気のない自分を責める。
同じ人の中で、その両方が起こることもあります。
菅原洋平さんの『思いつきで行動してしまう脳と考えすぎて行動できない脳―頭の使い方を少し変えたら、自分の弱みが武器に変わった!』は、行動の傾向を「同時系」と「継次系」という二つの情報処理の仕方から考える本です。
著者は作業療法士として、精神科や国立病院機構でリハビリテーションに携わってきました。本書は、その現場で得た経験をもとに、仕事や日常生活で脳の使い方を調整する方法を紹介しています。
2015年にKADOKAWAから刊行され、思いつきで動きやすい人と、考えすぎて動きにくい人の長所と弱点、その両方を使う方法、チームでの生かし方までを扱います。
二つのタイプは、性格や診断名ではない
本書では、物事を全体的なまとまりとして捉える処理を「同時系」、情報を順序立てて一つずつ扱う処理を「継次系」と説明しています。
同時系は、全体像や関係をつかみ、そこから直感的に答えへ進むことを得意とします。本書では「ひらめきタイプ」「思いつきタイプ」とも表現されます。
継次系は、情報を順番に並べ、確認しながら結論へ進むことを得意とします。本書では「堅実タイプ」や「頭でっかちタイプ」という言葉も使われます。
ただし、これは医学的な診断名ではありません。
人の脳を完全に二種類へ分け、一生変わらないタイプを決める検査でもありません。
同じ人でも、仕事では順序を重視し、趣味では思いつくまま動くことがあります。慣れた作業と初めての作業でも、使う方法は変わります。
本書の分類は、自分を決めつける名前ではなく、今どのような処理へ偏っているのかを見るための実践的な枠組みとして読む必要があります。
思いつく力を消さず、行動の前に事実を確かめる
思いつきタイプには、動き出しが速く、新しい発想を形にできる強さがあります。
一方で、頭の中で話が盛り上がるほど、まだ決まっていないことを、すでに起きた事実のように扱ってしまう場合があります。
相手はきっと賛成してくれる。
この方法なら必ずうまくいく。
今すぐ始めなければ機会を逃す。
その勢いは、行動を生みます。同時に、確認不足や、周囲との行き違いにつながることもあります。
本書では、思いつきタイプが発言するとき、言葉の前に「今までは」と付ける方法が紹介されています。
「今までは、こうだった」
そう言葉にすると、過去に確認できる事実と、これから起きることへの予測を分けやすくなります。
思いつく力そのものを抑えるのではありません。
行動する前に、確認できる事実を一つ置く。
その小さな間が、発想力を失わずに、行動の精度を上げる助けになります。
考え続ける前に、小さな行動から情報を得る
考えすぎるタイプには、正確に準備し、順序立てて進められる強さがあります。
失敗の可能性を検討し、必要な情報を集め、他の人にもわかる形へ整理できる。
ただ、間違いを避けようとするほど、すべての条件がそろうまで動けなくなることがあります。
もっと調べなければならない。
別の方法も比較した方がよい。
始めたあとで間違いに気づいたら困る。
考えることが増えるほど、開始する条件が厳しくなります。
本書では、「小さなエラー」を経験して柔軟性を養うことや、言葉の前に「じゃあ」と付ける方法が紹介されています。
「じゃあ、最初の部分だけ試してみる」
「じゃあ、一度確認してから修正する」
この言葉は、考えることをやめる命令ではありません。
考えても答えが増えなくなったところで、行動から新しい情報を得る方向へ切り替える合図です。
全部が決まる前に、小さく始める。間違いがあれば、そこで直す。
慎重さを捨てるのではなく、慎重に進むための情報を、実際の行動からも集めるという考え方です。
得意な方法が、いつでも最適とは限らない
得意な方法は、考えなくても使えるため、安心できます。
思いつきで全体をつかむ人は、細かな順序を確認することに窮屈さを感じるかもしれません。
順序を決めてから動く人は、結論が見えないまま始めることへ強い不安を感じるかもしれません。
それでも、いつもの方法だけでは進みにくい場面があります。
思いつきで動いて失敗が続くなら、継次系の「順番に確かめる方法」を少し借りる。
考え続けて止まっているなら、同時系の「まず全体へ触れてみる方法」を少し借りる。
苦手な処理を使うことは、性格を変えたり、本来の自分を否定したりすることではありません。
今の場面に必要な方法を、一時的に借りるということです。
自分の得意な処理へ戻る前に、反対側の方法を一つ挟む。それだけでも、いつもと違う結果につながる場合があります。
私がこの本から受け取ったこと
私がこの本を読んで残ったのは、「なぜまた同じことをしたのだろう」と自分を責める前に、どの段階で処理が偏ったのかを見る視点でした。
思いつきのまま動いたときは、考える力がなかったわけではありません。
思いつく力が強く働き、事実を順番に確認する工程が抜けていたのかもしれません。
考えすぎて動けなかったときも、やる気がなかったとは限りません。
正確に進めようとする力が働き続け、行動から情報を得る工程へ移れなかったのかもしれません。
そう考えると、「軽率な人」「行動できない人」という大きな結論から少し離れられます。
足りなかった工程を、一つだけ戻すことができます。
動く前に事実を確かめる。
考えが増えなくなったら、小さく始める。
行動の結果だけで、自分の能力や本気を判断しなくてもよい。
私には、そのように行動を見直すための本でした。
人へタイプを貼ると、見えるものが減っていく
二つのタイプは、自分の行動を観察するには便利な言葉です。
その一方で、他人を簡単に分類するために使うと、その人の変化や事情が見えにくくなります。
あの人は思いつきタイプだから、計画は任せられない。
あの人は継次系だから、新しいことには向いていない。
そう決めてしまえば、本人が別の方法を使っている場面や、経験によって変化した部分を見落とします。
本書では、異なる処理の傾向を持つ人が組み合わさることで、チームの弱点を補えるという考え方も扱われます。
ただし、それは本人の意思を無視して、役割を固定するための説明ではありません。
同じ人でも、場面によって得意な役割は変わります。
タイプを知ることは、その人が何をできないかを決めることではなく、どのような伝え方や進め方なら力を使いやすいかを考える入口です。
「脳タイプ」を、確定した医学的事実と決めない
同時処理と継次処理という区別には、神経心理学や認知処理理論の背景があります。
同時処理は、複数の情報を全体的なまとまりとして統合すること。継次処理は、情報を順序や系列として扱うことを指します。
一方で、人間を二つの固定的な脳タイプへ完全に分けられることが、医学的に確立しているわけではありません。
簡単な質問への回答だけで、脳のどの領域を使っているかを診断することもできません。
複雑な行動や判断では、複数の脳領域が連携します。状況、経験、学習、睡眠、疲労、感情などによっても、処理の仕方は変化します。
本書は2015年に刊行された実用書です。
脳科学の標準的な教科書や、個人を診断するための検査としてではなく、著者がリハビリテーションや仕事の現場から組み立てた実践モデルとして読む必要があります。
役立つ方法は試す。
自分に合わない説明は、そのまま採用しない。
その距離を保つことが大切です。
行動の困りごとを、二つのタイプだけで説明しない
思いつきで動くことや、考えすぎて動けないことには、さまざまな背景があります。
眠れていない。
疲れやストレスが重なっている。
失敗への不安が強い。
何から始めるかが具体的になっていない。
気分が大きく変化している。
周囲の要求や情報が多すぎる。
そのような状態を、すべて「同時系だから」「継次系だから」と説明することはできません。
特に、衝動的な行動が止められない、考え込みによって仕事や家事ができない、眠れない状態や強い気分の変化が続くなど、生活へ大きな影響が出ている場合は、本だけで解決しようとしないでください。
医療機関や専門の相談先へつながり、脳タイプとは別の要因も含めて状態を確認する必要があります。
行動の傾向を理解することと、診断することは別です。
行動のクセを責める前に、足りない工程を一つ戻す
思いつく力には、始める速さと、まだ形のないものを見つける強さがあります。
順序立てて考える力には、間違いを減らし、安定して続ける強さがあります。
どちらかを消す必要はありません。
動いたあとで後悔したなら、次は行動の前に事実を一つ確かめる。
考え続けて止まったなら、次は答えが出ていなくても小さな部分へ触れてみる。
一度で自分を変えるのではなく、いつもの処理に、反対側の工程を一つ加える。
『思いつきで行動してしまう脳と考えすぎて行動できない脳』は、自分を二つのタイプのどちらかへ閉じ込めるための本ではありません。
行動の結果だけを見て自分を責める前に、どのように情報を受け取り、どの工程で止まり、何を少し補えばよいのかを考えるための本でした。