06 物語と祈り
人は、 なぜ死者を葬るのか
遺体を特別に扱う営みは、死後の世界への信仰の証拠なのか。シャニダール洞窟の「花の埋葬」論争と、スンギル遺跡の子どもの豪華な埋葬から、埋葬という行為の意味を慎重に考えます。
前の章では、変えられない出来事の前で、祈りが人類のあらゆる文化に存在し続けてきたことを見てきました。では、あらゆる祈りの中でも、もっとも変えられない出来事である死に対して、物語と儀礼は何をしてきたのでしょうか。
人は、大切な人が亡くなったとき、その遺体をただそのまま放置することをしません。特別な場所に置き、何らかの形を整え、そこに時間と労力をかけます。この「遺体を特別に扱う」という営みは、人類のほぼすべての社会に見られる、共通した行為です。
ですが、この行為が何を意味しているのかを考えるとき、私たちは慎重になる必要があります。
イラクのシャニダール洞窟では、約6万年前のネアンデルタール人の遺骨(シャニダール4号)の周辺から、花粉のかたまりが発見されました。1970年代、この発見は「遺体を花で覆って弔った証拠」だとする「花の埋葬」説として広く知られるようになり、ネアンデルタール人にも豊かな精神性があったことの象徴として、多くの教科書にも取り上げられました。
EVIDENCE
ところが、この解釈には長年、異論が続いています。花を巣に集める習性を持つげっ歯類が、この花粉を持ち込んだ可能性があると指摘されたのです。2020年には近くで新たな骨(シャニダールZ)が見つかり、同じように古い花粉が検出されたことで、この説が再び注目を集めましたが、2023年に発表された研究では、改めて「動物の活動による可能性が高い」という結論が示されました。
OPEN QUESTION
この論争は、今も決着していません。「遺体の周りに花があった」という物理的な事実と、「人間が意図してその花を手向けた」という解釈の間には、まだ埋まらない距離があります。

この慎重さは、埋葬という行為全般についても言えることです。遺体を特別な場所に置き、丁寧に扱ったという事実だけから、その人々が死後の世界を信じていたと断定することはできません。遺体を大切に扱う理由には、死後の世界への信仰だけでなく、故人への愛着、共同体の秩序を保つこと、衛生的な配慮など、さまざまな可能性が考えられます。私たちに確かに分かるのは、「遺体を特別に扱った」という行為の痕跡までであり、その背後にあった信念の内容までは、多くの場合、推測の域を出ません。
一方で、埋葬という行為が、悲しみだけでなく、もう一つ別のことを映し出している場合もあります。それは、故人が生きていた社会の中での立場です。
ロシアのスンギル遺跡では、約3万4000年前の子ども2人が、頭を突き合わせるようにして一緒に埋葬されているのが見つかりました。8歳から13歳ほどのこの子どもたちは、1万個を超えるマンモスの牙で作られたビーズや、装飾を施された槍、キツネの牙の装飾品と共に葬られていました。
このビーズ一つを作るには、実験的な検証によれば約45分かかると見積もられています。1万個以上のビーズを作るには、途方もない時間と労力が費やされたことになります。
興味深いことに、同じ遺跡で見つかった成人男性の墓(スンギル1号)は、副葬品の量では子どもたちの墓に及びませんでした。この男性は約2900個のビーズと共に葬られていましたが、子どもたちはその数を大きく上回っていたのです。もし副葬品の豪華さが、その人が生前に積み重ねた功績や年齢に比例するのであれば、この結果は逆転しているはずです。研究者たちは、この不均衡こそが、子どもたちの地位が自分自身の実績ではなく、生まれながらに与えられたものだった可能性を示す、重要な手がかりだと考えています。
まだ自分の力で何かを成し遂げる時間もなかったはずの子どもたちが、これほど手のかかった品々と共に葬られていたという事実は、当時すでに、地位が個人の実績だけでなく、生まれや家系によっても受け継がれる仕組みが存在していた可能性を示す手がかりだと考えられています。

つまり埋葬という行為は、亡くなった人への悲しみを表すだけでなく、その人が生前どのような立場にあり、どのような関係の中で生きていたかを、周囲の人々があらためて確認し、形にする機会でもあったのかもしれません。
現代の私たちにとっても、葬送の形はさまざまです。宗教的な儀式を伴うものもあれば、簡素な形で見送るものもあります。ですが、その形がどうであれ、遺体をただの物として扱わず、何らかの特別な意味を込めて見送るという営みそのものは、時代や文化を超えて共通しています。それは、亡くなった人への悲しみの表現であると同時に、残された人々が、その人との関係をあらためて確かめ、自分たちの中に位置づけ直すための、大切な機会でもあるのだと思います。
では、こうして葬られた死者は、どのようにして、共同体の記憶の中に残り続ける「祖先」になっていくのでしょうか。
参考資料
-
Sommer, J. D.
“The Shanidar IV ‘Flower Burial’: A Re-evaluation of Neanderthal Burial Ritual.”
Cambridge Archaeological Journal, 1999.
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Hunt, C., Pomeroy, E., Reynolds, T., Tilby, E., & Barker, G.
“Shanidar et ses fleurs? Reflections on the palynology of the Neanderthal ‘Flower Burial’ hypothesis.”
Journal of Archaeological Science, 2023.
論文を確認する -
Trinkaus, E., Buzhilova, A. P., Mednikova, M. B., & Dobrovolskaya, M. V.
The People of Sunghir: Burials, Bodies, and Behavior in the Earlier Upper Paleolithic.
Oxford University Press, 2014.
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