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『躁鬱大学』坂口恭平|気分の波と少し距離を置くために読んだ本

『躁鬱大学』を、気分の波をなくす方法ではなく、波のある自分とどう暮らすかを考える本として紹介します。読むタイミングと医療との線引きにも触れています。

坂口恭平著『躁鬱大学』の本を木目の上に置いて撮影した写真

気分が上がっているときには、いくつものことを始められる。

頭の中に次々と考えが浮かび、眠る時間を惜しいとさえ感じることがあります。

ところが、しばらくすると身体が動かなくなり、連絡を返すことさえ難しくなる。上がっていたときの自分を思い出して、さらに自分を責めてしまうこともあります。

坂口恭平さんの『躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―』は、そんな気分の波を医学的に説明する本ではありません。

31歳で躁鬱病と診断された坂口さんが、自分の体験を振り返りながら、波のある自分と暮らすために見つけてきた方法を語る本です。

「普通の人と同じになる」ことを目標にしない

本書の出発点にあるのは、躁鬱を坂口さん自身の「体質」として捉える考え方です。

これは、双極性障害について医学的な定義を示した言葉ではありません。坂口さんが診断を受け、自分の状態を理解しようとする中で見つけた、本人なりの見方です。

坂口さんは、周囲と同じように振る舞うために自分を強く抑え込むと、心や身体が「窮屈」になると書いています。

波のない人間を演じ続けるのではなく、自分がどのような場所や関係で苦しくなるのかを知り、その状態を避けるための技術を持つ。

『躁鬱大学』という題名には、躁鬱とともに生きるための技術を学ぶ場所、という意味が込められています。

とても具体的で、ときに極端な15の講義

この本は、穏やかな言葉で少しずつ解説する一般的な心理書とはかなり違います。

「居心地が悪いと感じたら、すぐに立ち去る」「資質に合わない努力を避ける」「自己否定する言葉には、かぎ括弧をつける」といった、具体的で独特な提案が15の講義として並びます。

たとえば、頭の中に「自分は何もできない」という言葉が浮かんだとき、それを事実として扱うのではなく、「自分は何もできない」と、ひとつの文章として眺めてみる。

言葉と自分の間に、ほんの少し距離を置く方法です。

一方で、「人の意見で行動を変えない」「居心地が悪ければすぐに立ち去る」といった主張は、誰にでも、そのまま当てはまるものではありません。

人間関係、仕事、生活、安全への影響を考えながら、自分に合う部分だけを受け取る必要があります。

医学書ではなく、ひとりの当事者がつくった生活の記録

坂口さんは、自身の経験に加えて、精神科医・神田橋條治さんの口述をまとめた『神田橋語録』から着想を得て、自分なりの対処法を考えていったと説明しています。

そのため、本書には診断基準や治療法を体系的に学ぶ医学書とは違う、当事者の身体感覚があります。

躁の時期に周囲から評価され、動き続けてしまうこと。

力を使い果たしたあと、長い鬱の状態に入ってしまうこと。

昨日と今日で考えが変わり、一貫した人間を演じることに疲れてしまうこと。

こうした経験が、整えすぎない言葉で書かれています。

同じ経験をしている人には、「こんな状態になるのは自分だけではなかった」と感じられる部分があるかもしれません。

私がこの本から受け取ったこと

私がこの本を読んで残ったのは、気分の波をなくすことだけを目標にしなくてもよい、という感覚でした。

もちろん、生活を大きく壊すほどの躁状態や、死にたいほど苦しい鬱状態を、その人らしさとして放置してよいわけではありません。

ただ、自分を責めながら「波のない人間にならなければ」と追い込むことと、今の状態を観察しながら暮らし方を調整することは違います。

どのくらい眠っているか。

どのくらい予定を詰めているか。

どんな人や場所に触れたあと、身体が窮屈になるのか。

何をしていると、少し呼吸が楽になるのか。

自分の波を否定する前に、その前後で何が起きているのかを見る。本書は、そのための少し変わった視点を渡してくれる一冊でした。

この本を読む前に知っておきたいこと

『躁鬱大学』は、誰にでも勧められる穏やかな本ではありません。

語り口には勢いがあり、病気、治療、医師、自殺について、かなり強い表現も出てきます。

気分が大きく落ちているときや、刺激の強い文章が負担になるときは、無理に読み続けない方がよいと思います。

最初から順番に読まず、気になる講義だけを読む。つらくなったら閉じる。少し余力がある日に、また開く。

そのくらいの距離でよい本です。

本書の言葉と、医療上の判断は分けて考える

坂口さんは躁鬱を「体質」と表現していますが、公的な医療情報では、双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返す病気とされ、薬物療法を基本に、心理社会的な支援を組み合わせて治療します。

本書に書かれた方法は、坂口さん自身の経験から生まれたものです。服薬の変更、減薬、治療の中止を判断するための情報ではありません。

睡眠時間が大きく減っても活動を続ける、考えが次々と浮かぶ、大きな買い物や計画を始める、強い落ち込みが続くといった変化がある場合は、本だけで対処せず、医療機関へ相談してください。

こんな人には、届くものがあるかもしれない

気分の波をひとりで抱え込み、「自分の意志が弱いからだ」と責めている人。

医学書とは違う、当事者の生活感覚から出てきた言葉を読みたい人。

自分に合わない努力や環境を、もう一度見直してみたい人。

強い言葉をそのまま正解にするのではなく、自分に使える部分を選びながら読める人。

そうした人には、他の心理書とは違う形で深く届く可能性があります。

この本の価値は、万人に通用する正解を教えてくれることではありません。

「自分の場合はどうだろう」と、自分に合う暮らし方を考え始めるきっかけをくれることにあると、私は感じています。

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