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『がんばらない戦略』川下和彦・たむらようこ|続かない自分を責める前に、仕組みを変えるために読んだ本

『がんばらない戦略』を通して、続かない理由を意志の弱さだけで考えず、ルール、きっかけ、記録などの仕組みから見直します。意志力や習慣化の研究上の限界と、休養・治療・環境改善が必要な状態との線引きにも触れています。

川下和彦著『がんばらない戦略』の本を木目の上に置いて撮影した写真

※この記事にはAmazonアソシエイトリンクを含みます。

始めると決めたときには、本気だったはずなのに、続かないことがあります。

今度こそ毎日やる。

途中で投げ出さない。

もっと強い気持ちで取り組む。

そう決めても、数日後には元の生活へ戻り、「自分には意志がないのだろうか」と責めてしまう。

反対に、続けるために予定や方法を増やしすぎて、始める前から疲れてしまうこともあります。

川下和彦さんと、たむらようこさんの『がんばらない戦略―99%のムダな努力を捨てて、大切な1%に集中する方法』は、努力そのものを否定する本ではありません。

本当に必要な行動へ力を使うために、それ以外の決断や手順を、ルール、習慣、環境へ預けていく方法を、物語を通して考える本です。

2021年にアスコムから刊行されました。本書は、2018年刊行の『ざんねんな努力』を改題し、加筆修正したものです。

著者の一人である川下さんは、クリエイティブディレクター、習慣化エバンジェリストとして紹介されています。たむらさんは放送作家で、川下さんが習慣によって変化したことをきっかけに、その考えを物語へしました。

がんばらないとは、何もしないことではない

「がんばらない」という言葉だけを見ると、努力をやめることや、面倒なことから逃げることのように聞こえるかもしれません。

けれど、本書が提案するのは、何もしないことではありません。

限られた時間と力を、すべてのことへ同じように使わない。

自分が達成したいことに必要な行動は残し、毎回迷わなくてもよいこと、複雑にしなくてもよいこと、誰かや道具へ任せられることを減らしていく。

努力を消すのではなく、必要な努力へ使える力を戻すための考え方です。

副題には「99%のムダな努力を捨てて、大切な1%に集中する方法」とあります。

この数字は、生活の99%が本当に不要だと証明した割合ではありません。

何でも同じ強さで抱え込まず、自分にとって大切なことを選ぶという方向を、強く示した表現として読む必要があります。

二つの国の物語で、十の仕組みをたどる

本書は、習慣についての研究を項目ごとに解説する教科書ではなく、ガンバール国とガンバラン王国をめぐる物語として進みます。

主人公のミサキが暮らすガンバール国では、がんばることが重視されています。

けれど、多くの人が懸命に動いているのに、なぜか余裕がなく、結果にも結びつきません。

ミサキは国を離れ、がんばらないことを重視するガンバラン王国へ向かいます。

そこで出会う人たちは、一見すると変わった行動をしています。

同じ服を着る。

作業をゲームに変える。

決まったきっかけで身体を動かす。

予定を先に入れる。

同じ曜日に同じことをする。

行動を記録する。

物語の最後には、そこで学んだ内容が「がんばらなくても結果を出すための十ヵ条」としてまとめられます。

十ヵ条では、ルール化、ゲーム化、シンプル化、自動化、ご褒美の見える化、約束化、リズム化、トリガー化、記録化、得意なことを見つけることが提案されます。

すべてを同時に始めるのではなく、自分が止まりやすい場所に合う方法を一つ選ぶ。

本書は、十の正解を守るというより、続けるための負担をどこで減らせるかを見る物語として読めます。

毎回の決断を減らし、始めるまでを軽くする

何かを続けるとき、実際の行動よりも、その前の決断に疲れることがあります。

今日は何時に始めるか。

どの方法でやるか。

どこまで終わらせるか。

必要なものは何か。

そのたびに考えていると、始める前に時間と注意を使います。

本書では、繰り返すことを先にルールへする方法が扱われます。

朝食のあとに机へ向かう。

火曜日の夜に片づける。

運動するときの服を前日に置いておく。

毎回ゼロから決めるのではなく、同じ状況では同じ最初の行動を選べるようにする。

大きな目標を考え続けるより、「何が起きたら、最初に何をするか」を決めておく方が、動き出しやすい場合があります。

ただし、ルールは自分を縛る命令ではありません。

体調が悪い日、予定が変わった日、危険がある日まで同じ行動を強制するものでもありません。

始める負担を軽くするためにつくり、今の生活へ合わなくなれば変えるものです。

面倒なことを、少し楽しめる形へ変える

本書の十ヵ条には、面白くないことをゲーム化するという提案があります。

回数を数える。

小さな区切りをつくる。

昨日の自分との違いを見る。

終わった印を付ける。

苦しい義務として考えるだけでなく、少し試したくなる形へ変える方法です。

ゲーム化によって、始める抵抗が弱くなる人もいます。

一方で、点数、順位、連続記録が気になりすぎる人もいます。

記録を途切れさせないことが目的になり、疲れているのに休めなくなることもあります。

ゲーム化は、苦しさや限界を無視するための方法ではありません。

競争が好きではない人が、ランキングへ参加する必要もありません。

自分にとって少し面白くなる形を探し、負担が増えるならやめる。

楽しさを使うことと、自分を新しいルールで追い込むことは別です。

きっかけとリズムを、行動へ結びつける

「毎日やる」と決めても、いつ始めるのかが曖昧なままでは、行動を思い出せないことがあります。

本書では、同じタイミングで繰り返すリズム化と、行動を始めるきっかけを決めるトリガー化が扱われます。

夜になったら運動する、というだけではなく、夕食の食器を片づけたら、運動用の服を着る。

時間ができたら読む、というだけではなく、朝の飲み物を置いたら、本を一ページ開く。

目標ではなく、目標へ入る最初の動きを、すでにある生活の流れへ結びつけます。

同じ状況で繰り返すと、少しずつ、その状況が行動を思い出すきっかけになる場合があります。

けれど、習慣になるまでの時間は、誰にでも同じではありません。

行動の難しさ、頻度、生活環境、本人がその行動を選んだかどうかによって変わります。

一日できなかったことと、習慣がすべて失敗したことも同じではありません。

途切れた理由を見て、必要なら行動を小さくし、別のきっかけへ結び直すことができます。

ご褒美・宣言・記録は、使い方を選ぶ

本書では、行動を始めるためのご褒美、やることを人へ伝える約束化、積み重ねを見えるようにする記録化も提案されます。

最初の行動へ入るために、終わったあとの楽しみを用意する。

一人では後回しにしやすい予定を、先に予約する。

できた日を残し、どのような条件なら続いたのかを見る。

こうした方法が助けになる場合があります。

ただ、ご褒美を受け取ることだけが目的になると、もともと好きだった行動を楽しめなくなる人もいます。

目標を人へ話しただけで満足し、実際の行動が弱くなる場合もあります。

記録が、できなかった自分を責める成績表へ変わることもあります。

ご褒美、宣言、記録は、誰にでも同じように効く道具ではありません。

目標を公開することが苦しいなら、公開しなくてもよい。

記録を見るたびにつらくなるなら、頻度や方法を変えてよい。

記録は、自分を裁くためではなく、次に調整できる部分を知るために使うものです。

私がこの本から受け取ったこと

私がこの本を読んで残ったのは、続かなかった結果だけで、自分の本気を判断しなくてもよいという視点でした。

やろうと思った気持ちはあった。

けれど、始めるまでの手順が多かった。

時間が決まっていなかった。

一度に変えようとすることが多すぎた。

できたことが見えず、何も進んでいないように感じていた。

そうしたことが重なると、最後に残る説明は「自分の意志が弱かった」だけになります。

けれど、行動へ至るまでの流れを見ると、変えられる場所があります。

最初の行動を小さくする。

必要なものを先に置く。

行う時間ではなく、直前のきっかけを決める。

できなかった日ではなく、できた条件を記録する。

仕組みを変えることは、自分を甘やかすことではありません。

自分を責めるために使っていた力を、次の一回が起きやすい形へ使い直すことです。

意志力を、必ず減る資源と決めない

本書では、意志の力には限りがあり、決断や我慢を重ねると消耗するという説明が使われます。

この説明は、刊行以前から心理学で広く知られていた「自我消耗」や、自己制御の資源モデルと重なる部分があります。

ただし、その後の大規模な事前登録追試では、自我消耗の効果は小さく、信頼区間がゼロを含む結果が報告されました。

現在も、自己制御が難しくなる理由について、疲労だけでなく、動機、注意、期待、課題の意味など、複数の説明が検討されています。

そのため、「意志力は使うほど必ず減る有限の燃料である」と、現在の確定事項として断定することはできません。

それでも、睡眠不足、疲労、強いストレス、多くの選択が重なった状態では、判断や行動が難しくなることがあります。

毎回の決断を減らし、環境へ行動を支えてもらうことは、古典的な資源モデルが正しいかどうかとは別に、役立つ場合があります。

本書の説明は、科学的な最終結論としてではなく、意志だけへ頼らないための実践モデルとして読む必要があります。

習慣ができるまでの日数は、人と行動で変わる

習慣については、「何日続ければ身につく」という数字がよく語られます。

けれど、決まった日数を過ぎれば、どの行動も自動的にできるようになるわけではありません。

近年の系統的レビューでも、習慣形成にかかった時間には大きな幅が報告されています。

短い期間で始まる人もいれば、数か月かかる人もいます。

簡単な行動と、身体的・時間的な負担が大きい行動でも違います。

生活の中へ自然に置ける行動と、毎回環境を整えなければできない行動も同じではありません。

大切なのは、決められた日数を守ることではなく、繰り返せる条件を探すことです。

一度抜けたら最初からやり直し、と考える必要もありません。

できなかった日は、意志の弱さの証明ではなく、今のきっかけ、時間、行動の大きさが生活へ合っているかを確認する材料になります。

がんばれない背景を、仕組み不足だけで説明しない

始められないことや、続けられないことには、仕組み以外の理由もあります。

眠れていない。

心身の疲労が強い。

痛みや病気がある。

仕事、育児、介護で自由に使える時間がない。

不安や気分の落ち込みが続いている。

周囲から過剰な量を求められている。

そのような状態を、ルール化や習慣化だけで解決することはできません。

過重労働や不合理な要求があるときに、本人だけが効率化して耐える必要もありません。

仕事や家事へ大きな支障が続く、眠れない、強い気分の変化がある、衝動的な行動を止められないといった場合は、本だけで解決しようとせず、医療機関や専門の相談先へつながってください。

休むことに、次の成果を出すためという理由が必要なわけでもありません。

本書の方法を試して続かなかったとしても、それは努力や工夫が足りない証明ではありません。

方法が今の状態へ合わないなら、採用しないこともできます。

大切な一%へ、使える力を戻していく

すべてを同じ強さで続けようとすると、本当に守りたかったものまで見えなくなることがあります。

何のために始めたのか。

どこまでできれば、今は十分なのか。

自分でしなければならないことは何か。

減らせる手順は何か。

人や道具へ頼れる部分は何か。

その問いへ戻ると、努力の量だけではなく、努力を置く場所を選べます。

大切な一%は、誰にとっても同じものではありません。

仕事であることも、健康であることも、家族との時間であることも、何もしないで回復する時間であることもあります。

『がんばらない戦略』は、努力できる人になるために、さらに自分を追い込む本ではありません。

続かなかった自分を責める前に、毎回意志を振り絞らなくても動ける部分と、今は休んだ方がよい部分を分ける。

そのうえで、自分が本当に大切にしたいことへ、使える力を戻すための本でした。