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『あなたらしく生きていいんです!』石井達也|最も苦しかった時期に、過去の自分へ向けて書いた本

自著『あなたらしく生きていいんです!』を、2021年当時の記録として現在の視点から読み直します。双極性障害やアルコール依存症を含む経験、今も残したい考え、脳科学・過去を書き出す方法・飲酒に関する現在の訂正を紹介します。

石井達也著『あなたらしく生きていいんです! あなたのためのあなたになる』の書影

※この記事にはAmazonアソシエイトリンクを含みます。

これは、私が読んだ本を紹介する記事ではありません。

『あなたらしく生きていいんです!―あなたのためのあなたになる』は、私自身が2021年にAmazon Kindleで刊行し、その後、紙版も作った本です。

この本には、重いうつ状態、自ら命を絶とうとした経験、双極性障害、アルコール依存症についての記述があります。今、その内容へ触れることが負担になる方は、無理に読み進める必要はありません。

本書は、現在の私が、落ち着いた状態で心理学の知識を整理し直した本ではありません。

最も苦しかった時期の私が、自分に起きていることを知りたいと思い、インターネットや本で調べ、自分で試したことを書き残した本です。

そのため、今も残したい考えがある一方で、現在ならそのまま書かない説明や、明確に訂正したい助言もあります。

今回は、自著をよく見せるためではなく、実際に何を書いたのか、現在も残したいものは何か、今の立場から何を訂正するのかを含めて紹介します。

これは、最も苦しかった時期の自分が書いた本

本書の「はじめに」では、十代半ばから始まっていた双極性障害を、四十代で倒れるまで知らずに生きてきたと書きました。

重いうつ状態となり、精神科を受診したことで双極性障害を知りました。その前後には、自ら命を絶とうと行動したこと、通院しなくなったこと、引きこもったこと、肝硬変になる寸前までアルコールへ逃げたことも書いています。

これは、回復を終えた人が、過去を安全な距離から振り返った物語ではありません。

当時の私は、胸のあたりのモヤモヤやザワザワ、胃を握られるような不快感、背筋を走る悪寒に苦しみながら、「この感じはどこからやってくるのか」と考え始めました。

自分が弱いからなのか。

性格が悪いからなのか。

病気だからなのか。

環境のせいなのか。

答えがわからないまま、少しでも楽になる手がかりを探した過程が、本書の中心にあります。

「この感じはどこからやってくるのか」が出発点になった

第一章では、不安の理由を知ろうとして、大脳皮質、大脳辺縁系、扁桃体、海馬などについて調べた経過を書きました。

当時の私は、大脳皮質を意識や理性、大脳辺縁系を本能や不安と結びつけ、その二つの働きから自分の状態を理解しようとしました。

また、海馬が記憶を参照し、扁桃体が状況を評価して不安や恐怖を生むという説明を採用しました。

その説明によって、自分の苦しさを「性格の悪さ」だけにしなくて済んだことは事実です。

けれど、現在の私は、この脳の説明をそのまま科学的事実として書きません。

感情、記憶、判断、行動は、理性を担当する大脳皮質と、本能を担当する大脳辺縁系へきれいに二分できるものではありません。

本書の説明は、2021年当時の私が、自分の状態を理解するために採用したモデルとして読んでください。

猫の転位行動から、自動思考へ進んだ

本書には、我が家の猫であるハクとクロが登場します。

二匹が一触即発の状態になったあと、突然グルーミングを始めました。私はそれを、葛藤や緊張の場面で別の行動が現れる「転位行動」として知りました。

そこから私は、不安に押しつぶされているときにも、ほんの少しだけ別のことを考えられないかと思いました。

この出来事をきっかけに、アーロン・ベックの認知療法、自動思考、自己スキーマについて調べ始めます。

猫の行動が、人間の不安を治療する方法を証明したわけではありません。

猫の出来事は、私が考え方を変える入口を見つけた、個人的なきっかけです。

本書では、自動思考を、不安や恐怖などの感情まで含めて説明している部分があります。また、自動思考が大脳辺縁系から生じるように書いた部分もあります。

現在なら、考え、イメージ、感情、身体反応を分け、自動思考を特定の脳領域だけから生じるものとは説明しません。

それでも、頭に浮かんだ考えをすぐに事実と決めず、一度捕まえて確かめるという中心は、今も残したいと思っています。

変わりたいのに変われないことを、性格だけで説明しなかった

第二章では、変わりたいと思っているのに動けない状態を、「変わりたくない」という言葉から考えました。

本書では、人間が長いあいだ「群れ」で生きてきたこと、群れから排除されることが生存への危険につながったことから、現在の対人関係でも強い不安が起きると説明しています。

会社でのトラブルを、私は「会社という群れから排除された」と受け取りました。

その説明は、当時の私にとって、苦しさを理解するための大きな手がかりでした。

ただし、現在は、学校、会社、家族、友人関係で起きる不安を、すべて「群れから排除される恐怖」だけで説明しません。

不安には、病気、睡眠、疲労、過去の経験、現在の環境、経済状態、暴力やハラスメントなど、さまざまな要因があります。

また、戻るべきではない集団もあります。

危険な職場や関係から離れることは、群れへ戻れなかった失敗ではありません。

「群れ」という言葉は、2021年当時の私が、つながりと孤立を理解するために使った説明として紹介します。

カウンセリングが合わなかった経験と、起業までの経過を書いた

本書では、初めてカウンセリングを受けた経過も書いています。

最初の面接へ向かおうとしたとき、布団から出てシャワーを浴び、身支度をし、玄関まで進めている自分に気づきました。

私は最終的に十回のセッションを受けましたが、話すこと自体がしんどくなり、先が見えないと感じてやめました。

本書では、カウンセリングが無意味だったとは書いていません。自分にはその方法が合わなかったのだろうと振り返り、十回通えたことや、前向きに捉えられるようになったことには感謝しています。

その後、社会へ戻る方法を考え、就職だけが社会復帰ではないと思い、起業を選びました。

サンドブラスト加工を始め、後にグラフィックデザインの仕事へ進みました。

起業を思いついたときについて、本文では「躁転していたのかもしれない」とも書いています。

起業が双極性障害からの回復法だったわけではありません。

当時の私が、社会との接点をつくるために選んだ行動の記録です。

自分を抱きしめ、過去を書き、小さな行動を試した

第三章には、当時の私が試した具体的な方法を書きました。

布団の中で自分の身体を抱きしめ、何がつらいのかを自分へ尋ねる。

過去の出来事を書き出し、声に出して読む。

自分へかけたい癒しの言葉を集める。

一日の中で浮かぶ自動思考を書き留める。

目覚まし時計を設定する、窓を開ける、布団を畳むといった小さな行動を一つだけ試す。

好きな音楽、映画、漫画、芸人、動物の映像などを「気分すり替えアイテム」として用意する。

これらは、当時の私が実際に試し、役立ったと感じた方法です。

誰にでも同じ効果があると確認された治療法として書いたものではありません。

自分を抱きしめることや、優しい言葉をかけることが合わない人もいます。

気分転換が助けになる人もいれば、かえって自分の感情から逃げているように感じる人もいます。

合わない方法は、採用する必要がありません。

過去を書き出す方法は、誰にでも勧められるものではない

本書では、つらい過去を書き出し、読み上げる方法を紹介しています。

同時に、私自身が書いている途中で気分が悪くなり、ヒステリックになったことも記しています。

それでも当時は、「少しだけ無理をする」と書きました。

現在の私は、この方法を、強い苦痛を抱える人へ一律には勧めません。

過去の体験を詳しく思い出すことで、気分の悪化、強い不安、解離、自傷したい気持ちなどが生じる場合があります。

特に、トラウマ、自死に関する考え、重いうつ状態、精神病症状などがある場合は、一人で無理に行わず、医療機関や適切な専門家へ相談してください。

途中で苦しくなったなら、最後まで書ききる必要はありません。

やめることは失敗ではありません。

本書に方法が書かれていることと、その方法が今の読者に安全であることは、別に考える必要があります。

価値観、承認欲求、「群れ」を考えた

第四章では、価値観、承認欲求、つながりについて書きました。

本書では、「あなたらしさ」を、自分の価値観と向き合い、その価値観に従っている状態として説明しています。

また、他人から認められたい気持ちが強くなりすぎると、他人の価値観に合わせ続け、自分の希望が見えにくくなると考えました。

節の題名には「承認欲求を破棄する」とあります。

ただし、本文でも、人から認められることが行動の原動力になる場合があると書いています。

現在の私は、承認を求める気持ちを完全になくす必要があるとは考えていません。

誰かに認められてうれしいと感じることも、関係の中で生きる人間の自然な経験です。

問題になるのは、認められなければ自分には価値がないと感じたり、安全や健康を損なうまで他人へ合わせ続けたりするときです。

価値観も、一度見つければ一生変わらない答えではありません。

今は何を大切にしたいかわからない時期があってもよく、生活や経験によって変化してもよいものとして、現在は考えています。

脳科学の説明は、現在なら書き直す

本書を書いた当時、私は、自分を責める以外の説明を必要としていました。

大脳皮質と大脳辺縁系、海馬、扁桃体という言葉は、「自分の性格が悪いから苦しいのではない」と考える助けになりました。

ただ、役立ったことと、科学的に正確だったことは同じではありません。

現在なら、大脳皮質を人間らしい理性、大脳辺縁系を動物的な本能と分けません。

扁桃体を単純な恐怖の発生装置とも説明しません。

不安、記憶、判断、行動は、複数の脳領域と身体、環境が関わるものとして扱います。

本書の脳科学部分を、現在の医学や神経科学の教科書として読まないでください。

そこに書かれているのは、2021年当時の私が、自分の苦しさを理解するために採用した説明です。

飲酒については、現在の立場から明確に訂正する

第四章には「断酒のススメ」という節があります。

私はそこで、アルコール依存症と診断されたこと、断酒後に気分が安定し始めたこと、酒代を自分が喜ぶものへ使えるようになったことを書きました。

ところが、その後に、「うれしいときだけ飲む」「ご褒美として少しだけ飲む」ことを勧め、「ぜひ試してください」と書いています。

この助言を、現在の私は勧めません。

アルコール依存症と診断された経験のある人へ、条件を決めて飲酒することをご褒美として提案したのは、安全性への配慮を欠いた記述でした。

アルコール依存症では、再び飲むことで以前の飲酒状態へ戻る危険があります。

また、飲酒をやめる際に離脱症状が起きることもあるため、依存が疑われる人は自己判断だけで対処せず、医療機関、精神保健福祉センター、保健所、依存症の専門相談先などへつながってください。

双極性障害のある人にとっても、飲酒を気分調整の方法として勧めることはできません。

本書にこの文章が存在することを隠しません。

そのうえで、現在は採用しない助言として、はっきり訂正します。

今も残したい中心

本書には、現在なら書き直す説明があります。

一人で行うには慎重さが必要な方法があります。

飲酒について、明確に訂正すべき文章もあります。

それでも、今も残したい中心があります。

不安を感じた自分を、すぐに弱い人間と決めないこと。

頭に浮かんだ考えと、確認できる事実を分けること。

自分を責める前に、眠れているか、疲れていないか、環境に問題がないかを見ること。

大きな変化を要求する前に、今できる小さな行動を一つ選ぶこと。

自分だけで抱えず、助けを求めること。

できない方法を無理に続けないこと。

「少しずつでいい」と考えること。

この中心は、現在のTake a stepにもつながっています。

この本が合う人と、今は先に支援が必要な人

本書は、回復の途中にいた一人の人間が、自分の状態を理解しようと試行錯誤した記録を読みたい人には、意味があるかもしれません。

不安、自動思考、自己受容、価値観を考える最初のきっかけを探している人にも、受け取れる部分があると思います。

ただし、現在の心理学や神経科学を正確に学ぶための入門書ではありません。

医学的な診断や治療の代わりにもなりません。

自死や重いうつ状態、アルコール依存症についての記述が負担になる人は、読む必要がありません。

眠れない、食事が取れない、仕事や家事ができない、気分が大きく変化する、現実にはない声や気配を感じる、自分や他人を傷つけたい考えがある、飲酒を自分で止められない、酒が抜けると震えや発汗などが起きる場合は、本を読むことよりも、安全の確保と専門的な支援を優先してください。

購入しないことや、途中で閉じることもできます。

今の自分に合わない本を読まないことも、自分を守る選択です。

2021年の自分を、現在の自分が読み直す

『あなたらしく生きていいんです!』は、現在の私がすべてを書き直した完成版ではありません。

最も苦しかった時期を生き延び、自分に何が起きているのかを必死に探した、2021年の私の記録です。

過去の文章を隠さずに残すことと、その文章を現在も正しいと言い続けることは同じではありません。

今も残したい考えは残す。

単純化していた説明は、現在の理解から距離を示す。

危険な助言は、明確に訂正する。

当時の自分を嘘にせず、現在の読者にも責任を持つ。

この本を紹介することは、過去の自分を正当化することではありません。

不安や迷いの中で書いた言葉を、今の自分がもう一度引き受け、必要な部分を読み直すことだと考えています。